「ドS〜」バブル。について

澁澤龍彦がサドを邦訳してから50年、この極東の神なき国は今も長閑です。所詮神なき国に悪徳も異端も生まれはしない……その長閑な極東の島国の巷に近頃溢れかえっている「ドS〜」っていう単語、フレーズのバブルは何なんだろう。


昨日から向井理主演のドラマが始まったがその内容紹介が「ドSシェフ誕生!」……街で物色した好みの人間をガレージ風調理場でさんざん嬲り殺してからその肉で最高に美味い料理を出すシェフ、とちょっと古風なサイコホラー風物語でも無理に考えてみたのだが、やはり、思ったとおり、向井演じる極めて単純な人間のどこがどうドSなのかまったくわからない。


ドSのSは、shyのS? sillyのS? simpleのS? とにかく「ドS」という形容詞のつくキャラクターに共通してるのは、コミュニケーション能力が低く、ボキャ貧で、思考回路が単純で、態度ががさつ、うるさい(声がでかい)、でも実は良い人。とくに、実は良い人、がポイントです。みたいな……どこがどうサディズムと関係あるのかまったくわからない。


草食系に対しての肉食系のことか? とも思うが、肉食系の中でもことさらにナイーブ(もちろんネガティブな意味で)なタイプほど「ドS」と形容されているきらいがある。しかし、向井をはじめ、自らポジティブな意味で「自分はドSです」とかいう男もいるらしい。高偏差値タレントと目されている向井が普通に口にしているからには、世の中ではやはり、草食系と認定されることを避けるために自称ドSと名乗ることは普通になっているのか。


まとめてみると、私の感覚では、上記キャラクターの特徴から、いわゆるDQNな男の再評価と、反草食系であることの強調ための言葉として「ドS」が共有されている……う〜ん。そんなことくだらんことに援用されるサド様の憤慨ぶりが見えるようだ。


「私の彼氏って超ドSなの〜」とか「俺ってドSだから」いう友人が居たら、嫌がらせにその場で携帯を取り出して警察に電話して「知人がDVのせいで頭がおかしくなってます」と通報するので、私の前で恋人および自分が「ドS」と口にする際はご注意ください。


by風花

悪徳の栄え〈上〉 (河出文庫)

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悪徳の栄え〈下〉 (河出文庫)

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サド侯爵の生涯 (中公文庫)

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