Les portraits officiels des presidents de la France

大統領たちの公式ポートレート


7月14日の革命記念日に、威勢良くブログを再開すると宣言したにもかかわらず、あれから早一月半が過ぎてしまいました。パリにも残暑があり、8月29日には最高気温34℃を記録、ただ、日差しは6月の肌が焦げそうなほどの強烈さを失っています。夜はまだ9時くらいまで明るいですが、確実に夜明けは遅くなり、秋近しという感じです。2日前、夏期講習も修了し、宿題責めの日々から解放されしばしの自由を味わっている昨日今日です。もちろん9月からは新学期が待っています。来週の月曜日には近所の国立大学への編入試験があり、勉強していなくてはまずいのですが、今更数日の努力で奇跡が起こるはずもないので、ブログでも書こうかという次第です。


7月14日、革命記念日に、フランスのエマニュエル・マクロン大統領とアメリカのドナルド・トランプ大統領が、記念式典に揃って出席し、その後エッフェル塔の展望階にある高級レストランでディナーを共にしたことは、こちらの報道でも大きく取り上げられました。そもそも、今回トランプがフランスの革命記念日にやってくることになったのは、マクロンが彼を招待したからですが、フランス人のトランプ嫌いは相当なものですから、何故トランプなどを招待するんだと?! という声も多く聞かれました。土曜深夜のFrance2(国営放送。日本のNHK総合にあたる)のトーク番組では、フランスの高校生が作製した、「トランプが来るぞ〜!」というかけ声と同時に生徒達が一斉に教室から逃げ出すという、トランプをおちょくる動画がいくつもYouTubeにアップされていることが紹介され、スタジオでは、トランプと親密なFN党首「マリーヌ・ル・ペンが来るぞ〜!」という司会者のかけ声で、出演者も観覧の客も一斉に逃げだそうとする、というジョークが演じられました。それほど、トランプはフランス人からは嫌われている、というより評価が低い人物です。


革命記念日当日、仏米大統領が並んで恒例の軍事パレードを観閲している姿を見て、誰もがマクロンの思惑を理解したと思いました。マクロンは、トランプ大統領に対して、フランスの大統領は自分であり、自分の招待に応じて、つまり自分を大統領と認めたからには、マリーヌ・ル・ペンとの親密な関係にしかと楔を打ち込まれたと思え、と警告を発することで、トランプのフランス極右勢力への影響力を遮断する意図を明確に示したわけです。5月の就任以来、早々に内閣改造を強いられるなど苦しい政権運営が続いていたマクロン大統領ですが、まさに最も重要な国家的イベントである革命記念日に、わざわざトランプを招待したうえで、アメリカとは異なるヨーロッパの価値観を体現し、対峙して見せたのは、世界に対し、また国内に対しフランスの独自路線を目に見える形で示した「見せる政治」の晴れ舞台だったのです。トランプ大統領の、アメリカの多様性に真っ向から否定するような不寛容な政治姿勢に対して、同じく民族、宗教、文化の複雑さ、多様さ、テロの恐怖を抱え、困難に直面しつつもル・ペンではなく自分を選んだフランス社会、ヨーロッパの理性と寛容の伝統を学べと言わんばかりの矜持と強烈なメッセージを感じ取りました。トランプ大統領が就任した直後、彼が元は優秀なビジネスマンだったのから案外手堅い政治手腕を発揮するのではと愚かにも淡い期待を抱いた方々には残念ですが、この大胆な駆け引きで、トランプにル・ペンとの縁を切らせ、フランスとの友好な関係を確認させて名を上げたのはマクロン大統領の方であり、ビジネスマンとしてもマクロンのほうが一枚も二枚も上手だろうなということは、すでに明らかと言って良いでしょうね。


と、過去の話はここまでとして、あの革命記念日の晴れ舞台は一時の華やぎであり、メディアに、ブレグジット後のヨーロッパで、(ドイツに比べて相対的に印象が薄くなっていた)フランスを再び大国として復活させられるか、と好意的に書かれていたのもあの頃までだったように記憶しています。目下、マクロン大統領の支持率は低迷を続けています。景気が好転しないことや、増税につながる税制改革など、国民にとっては腰の引ける課題をテーブルに乗せてきたたこと、また当初彼自身が打ち出した「フランスの改革」なるものが進展しないことなどを理由に、彼のへの評価は一段と厳しくなっています。フランス政治の最新情報は専門の研究者に任せることとして、今日は第5共和政の歴代大統領の公式ポートレート写真を比較して、マクロン氏の人物像を観察してみたいと思います。


まず、第5共和政最初の大統領、Charles de Gaule

さすが、第二次世界大戦を勝利に導いた将軍らしく、軍服と勲章姿でエリゼ宮の重厚な書斎を背景に威風堂々としています。が、この威圧感こそが、後に1968年の5月革命を機に彼を辞任に追いやったのかもしれませんね。

次は、Georges Pompidou

あの有名な近代美術館と周辺のショッピングモール、ポンピドゥー・センターは彼の芸術愛好家としての一面を記念して名づけられました。やはり書斎で正装に勲章。

Valéry Giscard d'Estaing

フランス国旗を背景に選んでいるところにオリジナリティがありますね。そして、前2人が古典的にカメラのレンズ、つまりその背後にいる国民ではなく、有らぬ方(天、神、あるいは高き理想?)へ視線を向けているのに対して、ジスカールデスタン氏はカメラのレンズ=国民へ視線を向けています。服装も普通のスーツに変わり、勲章も姿を消しました。

François Mitterrand

大変な読書家で、こよなく本を愛した大統領は再び、エリゼ宮の書斎に戻りました。さらに机に向かって座っているのも彼独特のポージングです。彼以外に座った姿勢で公式ポートレートを撮影した大統領はいません。彼は、フランスで初めての左派社会党出身の大統領でもあります。パリ市内に複数ある国立図書館の中には彼の名前を冠したものもあります。やはり、視線は国民を向いています。さらに、本を開いて手にしているところや表情にも――微笑が浮かんでいます――威厳よりは個性、人間性を表したいという変化が見られます。

Jacques Chirac

この方、エリゼ宮の中から外へ出てしまいました! かなり大胆ですね。日本では親日家として知られてましたね……。でも、米国の対イラク戦争には反対の立場を取り、ド・ゴール大統領以来のフランスの独自性を主張していた事の方が、私には印象に残っています。

Nicolas Sarkozy

彼も、伝統的な背景を選んでいますが、フランス国旗と共に、EUの旗を小道具にしているところが新味です。まさにEU欧州連合)誕生時(2007)の大統領としての意気を感じさせます。彼は、どちらかというとフランス的でないといわれる保守主義者かつ新自由主義者というイメージや、社会の周辺に追いやられてきた黒人やアラブ系の若者の抗議デモに対して「(彼らは)社会のクズ」と発言したりして強権的に対応し、治安維持優先の為にはあらゆる行動も辞さないとった姿勢が印象に残ります。強権的な政治手法にもかかわらず、やはり、微笑を浮かべてこちらを見つめています。

François Hollande

再び社会党出身の大統領。宮殿内ではなく、外での公式写真を選んだ二人目の大統領です。地味な印象ですが、2016年1月のシャルリ・エブド襲撃事件、11月のパリ同時多発テロ事件以降、フランス国内で高まったテロへの恐怖や移民問題への対処に追われて苦労したんだろうなぁ、と想像します。2012年に大統領となった彼は、社会主義者の大統領として、権力の座に自覚なく座ることの恐ろしさを告白し、エリゼ宮に閉じ込められるのを拒否して、庭の奥の木陰でポージングすることでを選んだようです。シラク大統領のポートレートと比べて、よりエリゼ宮殿からの距離を感じさせます。

Emmanuel Macron

いよいよ現職マクロン大統領。この人のコンセプトはまさに型破りと言えるでしょう。まず、重厚な革装の本が並ぶ書斎を離れ、かといって屋外でもなく、執務室を背景に選んでいます。窓が開いていて、外の空間も映り込んでいるので、宮殿内派と屋外派の中間(右派でも左派ない中道の証?)のような印象です。両脇ににはフランス国旗とEU旗、反EUを掲げて彼と大統領選を決選投票まで闘ったマリーヌ・ル・ペン氏との価値観の違いを存分に強調しています。そして、歴代大統領の微笑に比べて彼の笑みがいちばん大きいことは一目でわかりますね。穏やかな微笑というより不敵な笑みにも見えます。39歳という若さ、エリート街道を歩んで、大手投資銀行で2億円以上の年収を得ていた才覚、(女性受けする?)容貌(ちなみに私は、欧米人の顔の美醜の基準が全くわからないので、彼がハンサムなのかどうか判断しかねます。ただ、彼を表紙写真にフィーチャーした女性誌がたくさん有るのも事実)や、24歳年上の妻との情熱的な恋愛ストーリーなど、自分の個性や魅力を熟知し、自己演出に長けた人間の自信に溢れた姿とはこういう感じか、と思わされます。それをむしろ嫌みに感じる人も少なくないと思いますが。

ところで、この公式ポートレートには、実はお手本とされた下敷きがあったのではないかという説があります。Le Mondeや Le Figaroなど主要紙がその類似性を指摘していました。

そう、任期を終えて、トランプに政権を譲ることになったバラク・オバマアメリカ大統領の公式ポートレートとの類似性を見てください。オバマ元大統領の場合は、執務室の執務机の前で、開かれたカーテンと窓から見える外の風景、2つの旗(アメリカ国旗と大統領章)を背にしています。マクロン大統領がこの構図を採用した背景には、彼のオバマ元大統領への敬意が現れているように思えます。マクロン大統領が、オバマ的なる価値観に共感している証であり、つまりはトランプ大統領的なるものへの反感が込めらられていると読み取ることは容易です。マクロン大統領は、トランプが気象変動に関するパリ協定から脱退を表明するや、すぐに公式会見を行い、その最後に英語でこうスピーチしました"We will make our planet grate again"。トランプのあの独占商標的スローガンをもじってダイレクトにトランプを指弾したことは、世界中でニュースになりましたね(その夜エッフェル塔は緑色にライトアップされました。パリ市とアンヌ・イダルゴ、パリ市長の抗議行動です)。最近では、アメリカのヴァージニア州の都市シャーロッツヴィルでの白人至上主義者団体とそれに抗議する人々の衝突について、どっちもどっち的発言をしてますます評価を下げた(白人至上主義者達からは感謝された)トランプ大統領に対して、オバマ元大統領の、「肌の色や育った環境、宗教を理由に他人を差別するように生まれてくる人などいない」というシンプルかつストレートなtweetが過去最高の♡を記録しましたが、黒人移民の女性を抱きしめて感涙させた(もちろんこれだって政治パフォーマンスには違いありませんが、トランプのパフォーマンスがことごとく彼自身に逆効果をもたらしていることと比較した場合、政治的振る舞いとはどうあるべきか熟知しているのはどちらか明らかでしょう)マクロンが親近感を持つとしたら、それはオバマ元大統領だと確信します。Le Mondeによると、マクロン大統領の公式ポートレートは「元閣僚にして、歴代大統領たちの公式ポートレートのアマチュア研究家である人物」の目には、「『マクロンにはアメリカへの憧れのようながあるようだ』」と映るのだそうです。また「確信と挑発、決闘などを連想させ、彼が追い求めてきた西欧の勝者であることを誇るような態度が見てとれる。マクロンはまるで『そう、まさに私の意思はそこにある。(ある意味傲岸、強欲ともいえる)そうした意思を自分の外へ追いやるには、自分の身体を通過させる必要があるんだろうね』と言わんばかりに見える」そうです。奇妙というか皮肉な表現ですが、マクロン大統領は、己の強烈な野心、権力への意志を公式ポートレートという形で表現せずにはいられない質であり、またそれを顕示するには自らの肉体のイコンを以てして行うことが最も効果的であるというイメージ戦略を持っているのでしょう。このなんとも微妙な言いようには、何かマクロンへの皮肉、あるいは批判が込められているようですね。また、英米に対して、大陸ヨーロッパ、あるいはフランスの独自性を主張してきた第五共和政の大統領として、「アメリカに憧れを持っているようだ」とはどういうことなのか? ともいろいろな含意を考えさせられます。


ちなみに、トランプ大統領のオフィシャル写真はこちら。

ホワイトハウス提供のオフィシャルポートレートですが、なんでホワイトハウスはもう少し人相の良いというか、sympa(感じが良い)な写真を選ばなかったんでしょう?


マクロン大統領の公式写真については、さすが西欧美術の中心だけあって、背景から執務机の上のいろいろなオブジェ(アトリビュート?)、例えば左手側の置き時計(時は飛び去る。フランスの立て直しにもはや時間は無いという覚悟? の意味)、積んである2冊の書籍(アンドレ・ジッドの『地の糧』とスタンダールの『赤と黒』だそうです)、右手側の開きかけの本のタイトルとその意味(ド・ゴール将軍による「第二次大戦回想録」とのこと。マクロンは、第5共和政の正嫡であると主張したいのでしょうか。ド・ゴール主義者だと明言しているのでしょうか?)、2台のスマートフォン、そのグラスカバーに影を落とす黄金の雄鶏(誇り高きフランスの象徴)の飾りの付いたインク壺etc......に関してLe Mondeが詳細な解説を載せていたようです。三冊の本が物語るのは、野心、既存の規範に囚われない意思、皮肉、彼個人の来歴と未来を叙事詩に擬えようとする欲望、そして文学への愛を表しているとのこと。そもそも執務室という、まさに大統領が決裁し、文書に署名することで法令や外交方針、条約、軍事行動の命令に実効力を付与する場所を選んでいる時点で、彼は自身こそが国家権力そのものだと示そうとしていることを窺わせます。日本では、アトリビュートという語は主に古典美術におけるキリストや聖人、あるいはギリシャ神話の神々などを象徴する持ち物や付属物を意味する美術史用語ですが、第五共和政は、もともと大統領権限の強さがその特徴とされており、マクロンは、大統領就任直後からジュピター(ギリシャ神話の万能の神ゼウス)ででもあるかのようだと形容(揶揄)されていたので、まぁ、これからは2台のiPhoneも万能神のアトリビュートになるのかもしれませんね。


Le Mondeの記事
http://www.lemonde.fr/politique/article/2017/06/30/un-portrait-officiel-ou-chaque-detail-compte_5153391_823448.html?xtmc=emmanuel_macron_un_portrait_officiel_ou_chaque_detail_compte&xtcr=1

http://www.lemonde.fr/big-browser/article/2017/06/29/le-portrait-officiel-d-emmanuel-macron-donne-en-exclusivite-aux-reseaux-sociaux_5153158_4832693.html?xtmc=emmanuel_macron_un_portrait_officiel_ou_chaque_detail_compte&xtcr=2

撮影風景の動画が面白い。


Le Figaroの記事
http://www.lefigaro.fr/politique/2017/06/29/01002-20170629ARTFIG00201-portrait-officiel-emmanuel-macron-transmet-un-message-d-action.php


HUFFPOST.JPでも似たような記事を見つけました。
http://www.huffingtonpost.jp/2017/06/29/macron-official-portrait_n_17339494.html
(過去の大統領が図書室を選んだのに対し、マクロン大統領が「書斎」を選んだというのは、「執務室」の誤訳と思われます。Le Mondeの記事では、撮影場所については、dans son bureauと有ります)


次回は、冒頭で少しだけ触れたFrance2(私のステュディオのTV、ちなみにSONY製で、一定時間視線を向けていないと勝手に電源オフになってくれる優れもので、なぜか、唯一まともに見られるチャンネル)について書こうと思っています。いつになるかわわかりませんが。今後の予定としては、広場とカフェという場所について考える、街の本屋さんと読書の都、ヴァニラ・エア事件についてのフランス人の見方とパリの街角から見えてくるフランスの障がい者福祉政策、フランスに居住する日本人コミュニティ&日仏国際結婚事情、夏期講習で通った名門語学学校の内側と外側、そこで出会った世界各地の友人たちの個性から見えてくるヨーロッパと<辺境>、フランスで東洋人として暮らすこと、フランス人女性は何故かくも我らを魅了するのかッ(笑)?! パリジェンヌの最新モードレポート、 フランス語を学び、フランスを学ばぬの巻、素晴らしきオリエンタリズムテヘランとパリと2人のイラン人女性、南仏の小さな港町でのヴァカンス珍道中記、フランス時間と日本時間、働くフランス人、働かないフランス人、なぜ人が居ないのにあの店は潰れないのか?、日本も見習え!大いなるSoldes、フランスで改めて読む「ヨブ記」、移民とは誰のことか? 美男美女の基準、フランスの階級、各種差別とポリティカル・コレクトネス、などなど(順不同)をテーマにブログ執筆を考えています。何か勘違いされるとお気の毒なのでここに記しておくべきだと考えたので、一応注意喚起しておきます。フランスLOVE♡ 憧れパリライフ♡ フランスの素敵便り♡ パリの街角、大好きなカフェのテラスから♡ パリ! 美味しい! お洒落! 楽しい! 大好き!♡ 等々のコンテンツをご希望の皆様方におかれましては、今後このブログを読むことはお薦めいたしません。



風花

昨日一夜漬けで書いたので、誤字、文脈の乱れ甚だしく、訂正いたしました。