せんそうはとおくなりにき、しなくだりたるわれらのじだい。という定型

昨夜TBSの終戦記念ドラマ「歸國」を見た。最初から期待してなかったが、予想を上回るグダグダぶりに、かえって、果たしてこのまま終わる気か? もう少しまっとうにならいのか? とはかない願いが湧いて最後まで見てしまい、結局すごくしらけた。


一旦「巨匠」になると、あそこまでグダグダな作品書いてもいいのね……酷いよなぁ。辻褄の合わないエピソードと、戦後社会をつくってきた一員としての自分の責任を棚上げにした、異様に偏った独善的な現代批判の連続。今日の某新聞が褒めちぎってるが、理解できない。


ぴんぴんしている甥は刺し殺せるが、スイッチ切るだけの妹は殺せないビートたけし。少女にやらせるな。つまり議論の余地のあるところでは他人に手を下させるんですね。
戦時下の女性の行動を「すべてを捧げてくれた(すべて=肉体・処女らしい)」としか書かないのはどういう想像力から?
向井理と妻(らしき女性)の絡み=半裸の女性を出す&絵を仕上げられなかったのは情交に耽っちゃったから……的な意味の手紙の朗読の必然性。向井理と絡みたい女性視聴者へのサービス?(「アンアン」のパクリ?)
豊かになったのが悪い、便利になったのが悪い、身体を使わなくなったのが悪い、しまいには日本陸軍的鉄拳制裁賛美とはなぬ? 強者がハッピーになれる世の中が良い世の中と?
戦後、家族の絆が崩壊? 戦前のビートたけしの兄妹だって親戚からたらい回しにされて東京に出てきたんでしょ。
靖国神社に参拝できない事情=A級戦犯合祀問題について、合祀賛成なのか批判なのか明快に意見を述べぬまま、「政治家が何もしない」と怒る。合祀反対とはっきり言えないあなたに偉そうなことを言う資格はあるの?
そもそも「英霊」に自分の主張を語らせるというのがずるい。「英霊」と名付けることによって、戦死者たち(の口)を奪い合うこれまでの泥仕合にあなたまで加わるとは。


なんかもう、なにからなにまで中途半端な上、議論の余地のある部分では反対陣営からも批判を免れるための措置だけは講じているあざとさ、えげつなさばかり目に付きました。


TBSの終戦記念ドラマ、まだ久世光彦の時代のほうが良かった気がする。久世ドラマは、陳腐ともいえるアナクロニズムに徹するところに一抹の高貴があった(もちろん放送当時はいろいろと割り引いて見るべし、というこちら側の作為の必要性を感じたけれど)。「戦前」への物狂おしい懐古や愛惜も久世に代表される戦前派の人びと個人個人の理屈を超えたアイデンティティノスタルジアを投影した「文芸作品」として評価できた。久世が戦前を語るときというのは、毒を帯びた甘美を味わう後ろ暗さと愚かさを十分に漂わせていなかったか。そして、久世はあくまで個人と小さな家族を通して戦前なるものの美しくも悲しい崩壊を描くことから足を踏み外さなかった。世を憂うために死者を「活用する」ということは、久世にとって愛すべき人を出汁ににするということだったのではないか。それに対して倉本はあくまで知識人、社会派として現代人の理性に訴えようとして非論理的・自己保身的な「論理」を展開し、その説得力を「英霊」から得ようとする。文芸作品としての質も低くく終わっただけだけだなく、現状に不満を感じてる人を妙な方向へ焚きつけただけのような気がする。ただ腹話術の人形のように戦死者に時評を語らせるスタイルに、久世にあったような喪われた者への陳腐だが濃やかな、理屈ではない愛惜は感じられなかった。「英霊」と呼びさえすれば彼らに報いることにもなるまいと思うのだけど……


終戦記念ものはどんどん質が落ちていくのかな……戦後65年という時間の長さをこういうところに感じました。



by風花

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